スマホと真逆の進化 なぜ今“ケータイ”が必要とされているのか|【OMM特集】大塚和成のネット・ITの気になる話

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大塚和成です。本日紹介するネット・ITの気になる話は『スマホと真逆の進化 なぜ今“ケータイ”が必要とされているのか』です。

スマホと真逆の進化 なぜ今“ケータイ”が必要とされているのか|【OMM特集】大塚和成のネット・ITの気になる話


 ドコモの「カードケータイ」や「ワンナンバーフォン」、auの「INFOBAR xv」など、大手キャリアが相次いで“ケータイ”の新機種を発表している。SIMロックフリーモデルでも、フューチャーモデルの「NichePhone-S 4G」が発売され、IIJがこれを採用した。スマートフォン全盛の中、真逆ともいえるシンプルケータイが息を吹き返しつつある格好だ。

 では、今なぜシンプルなケータイが必要とされているのか。ドコモやKDDIの発表から、今のトレンドを読み解いていきたい。


●通話やSMSに用途を絞ったカードケータイやワンナンバーフォン

 ドコモの発表した冬春モデルで最も注目を集めたのは、PixelでもGalaxyでもXperiaでもなく、カードケータイとワンナンバーフォンの2機種だった。スマートフォンの多くはベースモデルが既にメーカーから発表されていたという事情は割引いて考える必要はあるものの、スマートフォンが高機能、多機能化する中で、あえて機能を絞ったシンプルなケータイをラインアップに2機種も用意したインパクトは大きかった。

 2機種はそれぞれ役割が異なる。カードケータイはその名の通り、カード型の端末で、名刺大のサイズにこだわった1台。発表会では、吉澤和弘社長が名刺入れから取り出し、訪れた取材陣を沸かせた。名刺サイズにするために、ケータイの特徴であるテンキーを排し、E-Inkの電子ペーパーを採用している点も、カードケータイの新しい点といえる。

 主な用途は電話やSMSになりそうだが、OSはAndroidをベースにしていると見られ、ブラウザも搭載している。LTEでの通信ができるため、調べ物をする程度であれば、ネットも利用できる。電子ペーパーの書き換えに時間がかかるため、スクロールしながら長い文章を読むといったことには向かないが、いざというときのためと割り切って使うにはいい機能だ。

 このサイズながら、音声通話がVoLTEに対応しており、高音質というのもポイントが高い。吉澤氏は「ビジネスとプライベートを、別番号で使い分けたい人に最適ではないだろうかと考えている」と語っていたが、想定されている役割は“2台目端末”だ。仕事用にスマートフォンを持っている人が、プライベート用として電話のためだけに持ったり、逆に法人が電話連絡のために持たせたりといった利用シーンが想定されている。

 対するワンナンバーフォンは、見た目がより典型的な“電話”に近く、こちらは単独で利用することはできない。同モデルはeSIMを内蔵しており、親機になるAndroidスマートフォンと同じ電話番号で発着信できるのが最大の特徴だ。ドコモのサービスであるワンナンバーを利用するための電話というわけだ。

 ワンナンバーは「Apple Watch Series 3」と同時に導入されたサービスだが、実装自体はネットワーク側にされていたもの。iPhoneとApple Watch以外でも利用できるとされていたが、ワンナンバーフォンで2機種目の対応となる。eSIMに対応したApple Watchと同様、個別にネットワークに接続しているため、親機のスマートフォンと離れても利用は可能。ちょっとした外出のときなどに持ち出したり、スマートフォンをカバンに入れつつワンナンバーフォンだけをポケットに入れて取り出しやすくしたりと、さまざまな応用例が考えられる。

 シンプルなケータイが注目を集めたのは、ドコモだけではない。既報の通り、KDDIはINFOBARをあえてケータイとしてよみがえらせ、11月下旬に発売する。名称に「xv」と付いていることからも分かるように、同モデルは過去の焼き直しではなく、カードケータイと同じくLTE対応。INFOBARがまだコンセプト段階だったころのようにキー部分をフレームレスにするなど、デザイン面でのアップデートも随所に施した。こちらもVoLTEは利用できるが、おサイフケータイなどは搭載されておらず、ディスプレイも3.1型と小型。機能はシンプルだ。

●キャリアやメーカーがケータイに取り組む理由

 調査によって委細は異なるが、スマートフォンの普及率はおおむね6割から7割程度だ。総務省の平成30年版情報通信白書では、全体で60.9%、20代や30代のように90%を超えている世代もある。全世代というわけではないが、子どもや高齢者以外には、ほぼ普及しきったといっても差し支えないだろう。一方で、ドコモやauの扱うシンプルケータイは、スマートフォンが行き渡った層をターゲットにしているようにも見えない。

 では、なぜあえてキャリアやメーカーがシンプルなケータイに挑戦するのか。理由の1つは、スマートフォンの大画面化にある。ドコモの吉澤氏は「動画(を見るため)などの大画面ニーズは引き続き根強いものがあるが、一方でもうちょっと持ち運びやすい、あるいはシンプルなケータイが欲しいという声もたくさんいただいている」と語る。

 実際、ドコモが冬春モデルとして発表したスマートフォンを見ても、「Galaxy Note9」は6.3型、「Xperia XZ3」は6.0型、「Pixel 3 XL」も6.3型と、フラグシップモデルは軒並み6型を超えている。「Pixel 3」の5.5型がコンパクトに感じるほどだ。docomo withを見ても、「AQUOS sense2」が5.5型、「Galaxy Feel2」が5.6型と、いずれも5.5型を上回っている。

 ディスプレイが18:9以上の縦長になっているため、型(インチ)数だけを見て一概に大きいとはいえないが、スマートフォンの表示領域の平均値は、以前より確実に広がっている。スマートフォンをアプリやネットでコンテンツを消費するためのデバイスと捉えると確かに合理的だが、片手操作でサッと電話やSMSを送りたいというニーズは満たせていない。ここに、カードケータイなどのコンパクトでかつ機能を絞ったケータイが登場する余地がある。

 また、SNSやアプリ、ネットを必要以上に使ってしまう“スマホ依存”が問題視されている社会背景も無関係ではないだろう。AppleはiOS 12からアプリの利用時間などを制限できる「スクリーンタイム」を導入しているが、対するGoogleもPixel 3、3 XLの発表会では「Digital Wellbeing」と呼ばれる同種の機能の紹介に時間を割いた。ただ、こうした機能はあくまで緩やかな歯止めにしかならない。

 どちらも利用時間を可視化する効果はある一方で、ユーザー自身が解除してしまうこともできる。より徹底するのであれば、機能自体が絞り込まれた端末を持つというのも手だ。2台持ちして、日によって端末を使い分けることもできる。INFOBAR xvの発表時に、KDDIの商品・CS統括本部 プロダクト企画部の砂原哲氏は「デジタルデトックスなどに関心の高い方もいる」と述べていたが、シンプルなケータイはこうしたニーズを満たせる可能性もありそうだ。

 eSIMやワンナンバーのような技術が登場したことも、シンプルなケータイにとって追い風といえる。2台持ちがしやすくなるからだ。SIMカードを差し替えれば、確かに日によって使うデバイスを変えるのも不可能ではないが、どうしても手間がかかる。逆にスマートフォンとワンナンバーフォンの組み合わせであれば、外出時に必要な方を手に取るだけでよく、SIMカードの差し替えよりも手軽さは上だ。

 シンプルなケータイが相次いで登場したのは、単なる偶然ではない。「スマートフォンの大型化」や「スマートフォン疲れ」に加え、これらの問題を解決する「新技術の登場」という3つの要因が重なり、シンプルケータイが登場する余地が生まれたというわけだ。グローバルで見ても、HMD GlobalがNokiaブランドのフィーチャーフォンを復刻するといった動きもあり、これは世界的なトレンドともいえる。

●使い勝手の向上は必要、継続的な展開にも期待

 より大きな視点で見ると、ワンナンバーのような仕組みは、スマートフォンに集約されていた機能を、最適なデバイスに分散させる動きの始まりとも考えることもできる。iPhoneとApple Watchが最たる例だが、活動量や通知の受信はより体に近いところに身に着けるスマートウォッチで、それ以外はスマートフォンでといった役割分担は、今後、徐々に進んでいくだろう。

 通話やSMSをするための最適なデバイスがスマートフォンとは限らない。ワンナンバーフォンは、こうした発想から生まれたものだ。少々大げさかもしれないが、多端末接続が要件に挙げられている5Gの世界観を先取りしたものでもある。将来的には、活動量の計測や通知の確認はスマートウォッチで、電話やSMSは小型のケータイで、その他の機能はスマートフォンでといった形で、より端末が細分化していく可能性もある。

 ただ、こうした視点で見ると、現時点でのシンプルなケータイにはやや不満が残ることも事実だ。例えば、カードケータイはワンナンバーに非対応、INFOBAR xvもワンナンバーと同じ機能の「ナンバーシェア」が利用できず、スマートフォンと2台持ちしようとすると、電話番号を別々にするか、SIMカードを差し替える必要がある。ワンナンバーやナンバーシェアに比べると、料金が高くなってしまうのもネックだ。

 ワンナンバーフォンについても、通話やSMSだけしか利用できず、機能はApple Watchより少ない。そのぶん、一括で9720円とリーズナブルに入手できるのはメリットだが、利用シーンが少々狭い。ジムや屋外で運動をする際に、iPhoneを置いておき、単体で通信するためにeSIMを内蔵したApple Watchの方がコンセプトは明快だ。せめておサイフケータイが搭載されていれば、近所での買い物にも持ち出せていただけに、何かもう一工夫ほしいと感じた。

 とはいえ、こうした取り組みはまだ始まったばかり。ユーザーのニーズがどこにあるのかは手探りの状態だ。ドコモのプロダクト部長、安部成司氏が「いろいろなシチュエーションに応じて提供することで、どんな受け入られ方をするのかを確認したい意味もあって、(カードケータイとワンナンバーフォンの)2機種を出している」と語っていたように、どちらの需要が大きいかは未知数だ。シンプルケータイが1回限りで終わらず、継続的な取り組みになることを期待したい。



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